「食べてすぐ寝たら牛になる」
とは良く言います。
しかしながら改めて考えますと、牛は食べた後すぐ寝るのか?そして、牛の寝方とはどのようなものか、ぱっと思い浮かぶことがありません。
実際、牛の寝ているところを真似しようとすると、腕を内側へ曲げてうつ伏せにならなくてはなりません。
これをやってみると、どうも食後に心地良い体勢ではないなと分かります。
腕を内側に一所懸命曲げつつ、ふと、今の子供達が「食べてすぐ寝たら牛になるよ!」と言われて、これの意味が伝わるだろうかと疑問に思うようになりました。
さすがに、今の子では、牛になるよと言われたら、どこで覚えてきたセリフやら、「なったら近隣へどう説明します?」「戸籍はどうします?」と、生意気に聞き返すやもしれません。
そうこうするうち、おじさんである私は不安になってきました。
子供に負けまいとグーグルを駆使して調べてみると、どうも「寝たら牛」というのは、牛の生態やビジュアルをストレートに指しているのではないことがわかりました。
牛は一度食べたモノをもう一度口へ戻して噛むという生き物らしいのです。
これは、人間基準では行儀が良くありません。
そして食べてすぐ寝るというのも行儀が良くありません。
この行儀の悪さを引っ掛けて、似たようなものだぞと、戒めさせるつもりで「寝たら牛になる」と言うようです。
知らなかった。正直、知りませんでした。自分でも分かっていないことを子供に押し付けるのを恥ずかしく思いました。
そして、現代の基準からすれば、少々難解で時代にそぐわないかなとも思いました。
すぐ隣りの家の、家とフェンスの間、手頃な大きさのプラスチック製の犬小屋が挟まっています。
中は空っぽで、薄茶けた毛布が敷かれていて、犬の気配はありません。
「シロちゃん」という、少しこじんまりとした、おとなしい柴犬がいました。
シロの飼い主は、家の子供の男の子と、そのお母さんとおばあちゃん。
シロは滅多に吠えることもない人懐こい性格で、フェンス越しに通り掛かる人の姿が見るたび、尻尾を振って喜んでいたのでした。
男の子が学校から帰る夕方は、男の子とおばあちゃんとシロちゃんで散歩に出掛けます。
シロがぱぁーっと電柱の傍へ駆け寄って、何かをパクリ。
「シロちゃん!」
「シロちゃん何食べたの!メッ!」
おばあちゃんはシロの鼻の頭をグイッグイッと優しく押して、食べたものを出させようとしましたが、シロはゴクリ。長い舌で口の周りをペロペロ。
心配ではありましたが、いつもありがちなのことなので、まったくやだなぁと思いながらも、シロが歩いていく方へ引っ張られながら歩いていきました。
シロが歩きます。
てってッてっ、、、、
てってッてっ、、、、
泡を吹きながらシロは横に倒れてしまいました。
夕飯時の食卓。ご飯を食べてすぐ、男の子はテレビを見ながらソファに寝そべります。
「食べてすぐ寝たら、シロちゃんになるよ!」
お父さんはそう言って、お茶碗に箸で摘んだ漬物を置いてご飯と一緒にぱくり。
ソファにいた男の子は、そっと、自分の部屋へ入っていきました。
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