デパートの雑貨売り場にてカップルがマグカップを探している。
「このマグカップどうかな?」
男性が水色の柄の入ったティーカップを持ち上げると、女性は間髪入れずに口を開いた。
「なんかー、良いんだけど飽きそうだねぇそれ。」
「そっかー。。。」
「良いのないんだよねぇ、どれも一緒だし、つまんないっ!」
「つまらないのはお前の人生の事じゃないのか。」
マグカップを置き、立ち去ろうとするカップルの背後から太い声がする。
カップルが振り向くやいなや、眩い閃光が女性を包み込んだ。
「だったらお前が面白いマグカップになるんだマグーーー!!」
「きゃああああ!!!」
カンッ!カラン、カラン。。。
カップルの男性の足元に、100均で売ってそうなマグカップが転がった。
隣に女性の姿が見当たらない。
男性がこの事態を読み込めないでいる。
ただなんとなく、足元に転がったマグカップは、ここにいた恋人のような気がした。
男性はそのマグカップを形見のように持ち帰り、肌身離さず使うようにした。
家に帰るとマグカップに麦茶を注ぎ、冷凍庫から取り出した氷を上から3,4個落とす。
((...冷たい!やめて!冷たいっ!!))
マグカップになった女性は氷に麦茶の冷たさで全身が凍えていた。
かと思えば、スープが飲みたいとマグカップにスープの粉を入れ、熱湯を注ぎ入れる。
((ぎゃぁああああああ!!熱い!熱い!!熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い!!!))
100度に近い熱湯を全身に浴びせられ、身動きも取れず、やけどの意識だけがハッキリしている。
冷たい飲み物、熱い飲み物、電子レンジで再加熱。それがこの男の「飲み物を飲む順番」という癖だった。女はどんなリアクション芸人よりもオーバーに振る舞わねばならなくなった。
『怪人マグ』。
彼は特殊な能力を使い、人間の姿をマグカップに変えてしまう。
「マーグマグマグ!今日も愚かな人間たちをマグカップにしてやろう!」
「あいつオレのこと好きらしいんだけど、いきなりのプレゼントにマグカップってww同棲かよ!取り敢えず怖いから快く受け取ったけどさww」
「マグマグ!酷いやつ!人の気持を思い知れマグーーー!!」
((...なんだ、一体、俺は....えっ、マグカップになってる!俺は、マグカップになってる!どういうことなんだ、あっ、これ、引き出物のマグカップじゃん!))
((ん?ここは、結婚式場!?えっ、あっ、俺、来賓者に手渡しされてる!))
「わぁ、ありがとう!これなぁに?マグカップー!?嬉しいぃー!丁度欲しかったんだよねぇ!!ありがとありがとー!」
((なんだ、喜んでもらえているようだ...))
((マグカップになってしまったけれど、人に喜んで貰えたなら、なんだかそれも悪くはないかな。。。))
「あー、ただいま、」
((この人の家に着いたようだ、これからはマグカップとして愛用されるんだな、俺。。))
「マグカップとかチョーいらねぇwww捨てるし!」
(( えっ!!!! ))
怪人マグは人々を次々にマグカップへ変えていった。
しかし、そんな悪事に正義が許すわけがなかった。
「怪人マグ!これで終わりだ!!トォ!!」
「ぐぁぁああ!マグーーーーーッ!!」
爆発とともに砕け散った怪人マグ。
正義の活躍により、人々は、マグカップにされる恐怖から開放されたのだった。
((冷たい冷たい冷たい冷たい冷たい冷たい冷たい冷たい冷たいっ!!))
((熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い!!!))
男はあの日以来、マグカップを使い続けている。
怪人マグが居なくなった今、マグカップにされた人間が元に戻る術は、無い。
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